アジア研修会シンポジウム原稿

  アンニョンハシムニッカ
  チョヌン「タマキ」ラゴハムニダ。
  チャルプタハムニダ。
  Hello! and how do you do.
  サワディカップ。
  スラマッパギ。(午後ならシアン)
 みなさんはじめまして、こんにちは。
 残念ながら私は韓国語を話すことができませんので、本日は日本語にてお話しすることをお許しください。
 私は、東京の南およそ70km、横須賀市にあります久里浜幼稚園(くりはまようちえん)の園長を務めております玉木弁立(たまきべんりゅう)です。本日は私の幼稚園における日本の子どもたちの様子をご覧いただき、あわせてピアジェ教材をどのように活用しているかを紹介します。日本における幼児教育の実情の一端をご理解いただければ幸いです。
 まずは現在の日本の幼児教育の現状を簡単に説明します。
 日本の教育制度では、新学期が4月1日に始まります。「幼稚園」で教育を受けられる子どもたちは、入園時点で3歳に達している子どもたちです。小学校に入る年齢が6歳ですから、長くて3年強の期間を幼稚園で過ごすことになります。この他に「保育園」という制度があり、こちらは働く親のために、生まれてすぐの年齢から小学校へ進むまでの年齢の子どもたちを受け入れるための施設です。実は働く母親の増加に伴って保育園への入園を希望する親が増え、更に急激な少子化の波にさらされて、日本の幼稚園は変革期にあります。
 幸い私の幼稚園は、東京のベッドタウンにありまして、ここ20年ほどはおよそ700人の園児を受け入れることができていますが、将来的にはどの幼稚園もその存続に関してさえ、問題意識を持っています。
 幼稚園も保育園も、公立と私立の2種類があり、当然私立の方が親の経済的な負担は重くなります。しかし、私立は日々様々な努力をして負担が重くても選んでもらえるような園にしています。特色のある園が多く人気を集めています。ちなみに私の園も私立幼稚園です。

   ------ ビデオ上映しながら -------

 さて、それでは私の幼稚園の様子をビデオでご覧いただきたいと思います。
 今現在、日本の幼稚園は7月20日から8月いっぱいまでの夏休み期間中です。この映像は夏休み前の7月に私の園で撮影し編集しました。
 まず、朝の登園風景です。私立幼稚園のほとんどはこのように送迎バスを運行しています。私の園では5台のバスにそれぞれ野菜の名前を付け、デザインもそれにあわせて送迎をしています。
 子どもたちは幼稚園に到着するとまず仏様におまいりをします。私の幼稚園は仏教園です。私立幼稚園では宗教的な情操教育も認められています。
 朝10時頃に全員がそろうと体操と朝の体育が始まります。体育が終了すると各クラスごとに教室の中に入ります。
 ここから、各クラスのカリキュラムに沿った教育が進められるわけですが、本日は特にピアジェ教材のプログラムに限ってご紹介したいと思います。
 ここは、3歳児の教室です。使用している教材は「スタートシリーズ」です。この教室では20名の子どもたちが毎日生活をしています。

 次に5歳児の教室をご覧ください。「ファーストシリーズ」の「重なり」のプログラムを実践しているところです。この教室には、およそ30名の子どもたちがいます。この子たちは来年の4月に小学校へ進学します。

 お時間がありませんので、非常に短く編集したものをお見せしましたが、日本の幼稚園の様子を、雰囲気だけでもご覧いただけたものと思います。日本中の各園では、その園の方針にそってそれぞれ今日ご覧いただいたのとは若干異なった教育が行われているのは申し上げるまでもありません。

 私は今まで機会を見て、さまざまな国の幼稚園と子どもたちの様子を参観してきました。ピアジェの生まれた国スイス。フランス、イタリア、そしてアメリカ、東南アジア諸国タイやインドネシア、韓国や中国でもその国の幼稚園における教育と、未来ある子どもたちの様子を拝見させていただきました。その中で次のような二つの感想を強く持ちました。
 まず第一に、子どもの可愛がりかたですが、アジア諸国の人たちは、とても子どもを大切にします。勿論西欧諸国でも子どもを大切にすることは同じなのですが、その可愛がりかたにアジア圏に共通したものがあるように思えます。
 隣の子でも、見知らぬ子でも一様に、近くにいる子をとても可愛がるのです。場合によれば過剰と思われるほど子どもを大切にします。とにかく、自分の子でも他人の子でも「可愛くて可愛くてしかたがない」というような愛し方をします。
 一方西欧では、子どもを早く独立させて一人の人間として認めようとするような可愛がかたをします。我々が見ると、ちょっと冷たいのではないかと思うような、自立を求めた可愛がりかたをします。
 先日、アメリカの人と話をしていたら、
「日本人は電車で年寄りになかなか席を譲らないのに、どうして子どもに席を譲るのですか?」と、驚いていました。子どもに席を譲るという現象は、やはりアジア諸国でよく私も見かけます。どちらが正しいかどうかという議論は別にして、子どもに対する愛情のかけかたが、こうした場面でも明らかに異なっているように感じます。
第二に、西欧諸国は教育が非常に個人的です。個性を大切にするお国柄と国民性を反映して、一クラスはとても少人数で、教師の数も多く、指導も個々に行われています。
 一方アジアの国では、集団指導とか、一斉指導というようなやりかたが主流です。私の園でも先ほどご覧いただいたように一クラス20名から30名の子どもたちがひとりの先生から一斉指導を受けています。
 実は今日ご紹介しているこのピアジェ教材は、この一斉指導とか、アジア諸国に共通する国民性ににとても適していると感じます。教材を扱うのは確かに個人的な活動なのですが、導入部分や展開の部分では、お友だちとの話し合い、みんなで工夫していろいろな解決方法を提案していくこと、さまざまな異なった方法で意見を戦わしていくことなど、すべて子どもたち同士の活発な活動で成り立ちます。先生はこれをうまく見守りながら、子どもたちが悩んで解決していくのを補助していきます。これは、個人的な活動では育ちにくいものです。集団指導のなかで初めてその進化を発揮できるように思います。

 ここまで、「アジア諸国」とひとくぐりでお話してきましたが、アジアの中でも様々な国があり、それぞれ暮らしている人々により、教育の方法や子どもたちに対しての考え方も、教育環境もすべて異なっていることは承知しています。誤解を恐れず申し上げると、それでもなお、私は、先ほどお話したようなアジア諸国に共通した何かを感じたのです。そして、私たちアジアの人間が一緒に取り組める教材としてのこの「ピアジェ教材」の優位性を強く感じました。
 このアジア研修会を新たな出発点として、ピアジェ教材を核とした、アジアンティストな新しい教育の姿を追求し、アジアの国々が教育の場で連帯していけたらとても素晴らしいことだと思います。


とじる