子どもは嘘をつくの?つかないの?

 まず結論を言うと、「嘘をつく」とも言えるし、「嘘をつかない」とも言えます。なぜなら、恐らく「嘘」という概念を子どもたちが持っていないからです。
子どもには道徳性が欠落していると言われます。これは子どもが自己中心的な思考経路しか持たないため、相手の立場に立って物事が考えられないからです。
 ただ、子どもたちの「自己中心的な思考」とは、おとなのいわゆる「ジコチュー」とは異質な、自分の周りの世界が自分を中心に回っていると考える、幼児独特の思考のことです。このおかげで、子どもたちは、絵本やアニメ番組の空想の世界に、スーっと入っていくことができるし、その登場人物になりきって、悲しみ喜び元気づけられることができるのです。
 そんな子どもたちだから、おとなのように嘘が「悪いこと」とは考えてはいないでしょう。だんだんとおとなになっていくに従って、「嘘をついた。いけないことだ!」と言われながら、どんなことが嘘なのかを学んでいきます。


■子どもの嘘の種類
 おとなの社会の嘘は、自分の立場を弁護したり、虚栄心のためや、自己保身のためだったりしますが、子どもの嘘にはこんな動機はありません。
だから、こどもたちはおとなのような嘘はつきません。ただ、現実とは違う故に、おとなの世界で考えれば「嘘」にあたることばを気楽に使います。

ではここで、子どもたちの「嘘」を分析してみましょう。

@思いこみ
 子どもたちが空想の世界に浸り込むあまり、現実にないことを本当にあったと思いこんで言う「嘘」です。例えば「さっき、空から怪獣が飛んできたんだぞ」なんてあり得ない話を平気で言ったりします。案外その場では、子どもたちが本当にそう信じていたりするのです。
ですからお母さんが「大変だ!うちの子が空想癖のある子になったら大変だ」なんてあわてる必要はありません。むしろ、感性豊かな夢の世界にひたれる素敵な子だなと喜んでいいでしょう。少しずつ現実と空想の世界との判断がはっきりしてきてこうしたことがなくなってきます。あまり早く現実だけのおとなの世界へ踏み込んでしまっては、つまらないおとなになってしまいます。

A願望
 例えば、お母さんが「今日お迎えに行くよ」と言ったとします。お母さんはいつものように「バス停までお迎えに行くよ」と言ったつもりなのに、子どもが
「今日は幼稚園にお迎えに来て欲しいなあ!」と思っていたりすると、その言葉を勝手に幼稚園までお迎えに来ると解釈して、担任の先生に「今日は絶対にお母さん来るからバスには乗らない!」
なんて言い張ったりします。勿論本人はそう信じているわけですから、本人としては嘘を言っているつもりはありません。

B誘導尋問の結果
「今日幼稚園で歌を歌ったでしょう?」「ううん、歌わないよ!」
「えーそんなことないでしょ、よく考えてごらん、きっと歌ったわよ!どう?」「えーっと」
「ほらみなさい、歌ったんでしょ!」
「うん。」
 おとなの言葉に反論しようとしますが、結局言い含められて、面倒くさくなったり、「うん」と言った方がお母さんのごきげんがよくなると考えて肯定してしまいます。そのうちに実際にどうだったかはどうでもよくなり、結局言われたとおりに記憶に塗り替えられて、最初の否定は嘘になってしまいます。

C期待に応える
 上の例にだぶってきますが、おとなの期待する回答にあわせて、自分の記憶を書き換えていきます。おとなの気持ちを読むことができるようになる、年長の子によくあることです。

D反抗する嘘
 反対に、おとなに対抗するために、実際と違うことを強調して言って対抗します。ひとりのお友だちの赤い靴がうらやましくておねだりをしたのに買ってもらえないと
「だってみーんな赤い靴はいてくるんだぞ」となってしまいます。
いずれにしろ、おとなのような打算の結果の嘘ではなく、本能的な護身と見るべきでしょう。

E面倒だ、忘れた。
男の子によく見られるパターンです。お母さんにあれこれ尋ねられるのが面倒くさくて適当な返事をします。
「ねえねえ今日何したの?」
「えーっといろいろ」
「いろいろってどんなことしたの?」
「うーん、知らなーい」とか
「わかーーんない」なんて嘘をつきます。


 このように分類してみましたが、子どもたちの成長の過程で、必ずこのような場面にあたってくると思います。ある場面では子どもたちにとって嘘でなくても、おとなの世界で考えれば「嘘」であったりするわけです。
 親は子どもの言うことをぜんぶ信じたいものですし、勿論一番の理解者でなくてはいけません。
しかし、子どもたちの話の中にはこんな形のいわゆる「嘘」が含まれていることを承知しておく必要もあります。

 ただし、繰り返しお話ししてきましたように、これは、子どもたちの意識的な目的を持った「嘘」ではなく、幼児期に特徴的な、成長課程で必ず通る思考形態によるものであることも、あわせて承知しておいてあげる必要があります。


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